長崎大学病院 国境を越えた地域医療支援機構

総合診療専門研修プログラム

平戸で育てる、平戸で学ぶ
平戸市民病院院長&専攻医インタビュー

平戸市民病院 堤 竜二 病院長
コネクティング・ザ・ドッツ
 〜「なんでもやってみよう」を歓迎します
平戸市民病院 堤 竜二 病院長

平戸市民病院の堤竜二病院長にお話をお聞きしました。

―病院長に就任されたのは2022年4月ですね。そこに至るまでの経歴をお教えください。

1994年に長崎大学を卒業しました。長崎大学移植・消化器外科の出身です。その後、大学病院をはじめ上五島病院、長崎労災病院、島原病院などに勤務いたしました。この平戸市民病院には、2011年から勤務し好きな臨床、手術だけをさせていただいていましたが、2022年に病院長となりました。通常は公的病院の院長には大学の教授を経験なさった先生などがなるものなのですが……。このような大任を私ごときが務まるのかと畏れ多いことでしたが、34年間の長きにわたり院長の任に着かれていた敬愛する押淵前院長にお話をふられた以上、もはや断るわけにはいきませんでした。私は人の先頭に立って働くより、手術室にこもっているのが性に合っていますし楽しいのですが。院長ともなれば会議や委員会、審査会、ほかにもいろいろな業務に忙殺されます。正直、院長がこんなに忙しいとは知りませんでした(笑)。


―平戸という地域の中で、平戸市民病院の役割や地域医療の在り方はどうお考えでしょう。

平戸市はさせぼ県北医療圏として佐世保市などと一つにくくられています。させぼ県北医療圏には全国平均以上の医師が確保されていますが、佐世保市に偏っていて、松浦市や平戸市での数はその半分くらいというのが実情です。役割分担としては、佐世保市の急性期病院で手術をして頂き、帰ってきた患者さんが当院で回復し、その後自宅に帰った後も診ていくというものです。病気が治ればそれで終わりではなく、介護や福祉、家庭環境にまで気を配ることが大切であると考えています。


―救急医療も行うと聞きました。

はい、当院はこの地域の2次救急を担っています。回復期・慢性期だけではなく緊急を要する患者さんも受け入れています。もちろん専門外の疾患は高次医療機関にお願いしなければなりません。胃がん、大腸がん、胆のう摘出術などの手術はここで行っています。着任した当初はどんな大手術でもやってやると息巻いていましたが、今では自分たちでできることを当院で完結させることを目標にしています。


―総合診療専攻医や地域医療を志す若手医師に期待することはなんでしょう。

私どもの病院には常勤医師5名がいますが高齢化が進んでいます。長崎大学からの支援、「国境を越えた地域医療支援機構」のおかげで若手医師や研修医の先生方が来てくださっています。先生方には田舎でしか経験できない都市部とは違った在宅医療の分野に積極的に関わって頂きたいと思っています。終末期の患者さんの看取りの時間に向き合って頂き、その家族にも寄り添うことの大切さにも気づいて頂けたらと思っています。昨今、ACP(アドバンストケアプランニング)の重要性が叫ばれていますが、これは言ってみれば医療の原点のようなもの。大病院の急性期医療だけやっていては、なかなか見えてこないものがあり、収穫は多いと思いますよ。


―ここに来た若い医師はどんなことを学ぶことができるのでしょう。

地域診療医は19の診療分野を広く診る能力を求められます。中には血を見ることが苦手な先生もいらっしゃると思うのですが、地域医療の現場では否応がなく外科的なことを要求されることがあります。苦手なことにもなるべく挑戦していただけたらと思っています。私は外科医ですが胃カメラや大腸カメラ、イレウス管挿入など内科の仕事も必要に迫られてここで覚えてしまいました。地域医療において総合診療科の守備範囲は広く可能性は無限大です。そこで、若い総合診療を志す先生方には積極的に外科手技までをも学んでいただきたいと思っています。


―「プログラム」によって平戸市民病院で研修している高橋康太郎先生の仕事ぶりはいかがですか。

高橋先生は総合診療専攻医ですが、外科についても積極的に学ぼうという意欲をお持ちです。なるだけ、手術室に入ってもらっています。お客さん扱いではなく、りっぱな一外科医にするくらいの意気込みで教えています。虫垂炎やヘルニアの手術が独力で完遂できるくらいまでなってほしいと思っています(笑)。

―内科系を志すドクターに外科の手技を教えることが可能なんですね。

まあ、外科のジャンルといえば、昔は体育会系というか、職人畑で「見て覚えろ」という厳しい雰囲気がありましたが、今では手取り足取り、あくまで優しく……(笑)。若い先生たちのこれから始まる長い医師生活ですから、一見畑違いで将来役に立ちそうでない分野のことでも、半年一年くらい掘り下げて学んでいってもいいと思うのです。ここでの学びや経験が、ある時「あっ」という場面で役立つかもしれません。これは、私の思ったことではなくスティーブ・ジョブズが言っていたことなんです。「コネクティング・ザ・ドッツ」です。これからの人生に役に立たないと思えることもいつかつながるのです。
逆に「なんでもやってみよう」という前向きな姿勢の若手医師にとっては、これほどやりがいのある現場はなのではないでしょうか。


平戸市民病院 堤 竜二 病院長
平戸市民病院
平戸市民病院 髙橋康太郎 総合診療専攻医
地域の小病院だからできること
 〜途上国での活動を見据えて
平戸市民病院 髙橋 康太郎 総合診療専攻医
(長崎大学病院 総合診療科)

長崎大学病院総合診療科「ながさき総合診療専門研修プログラム」に所属し,平戸市民病院で働く髙橋康太郎先生にもお伺いしました。

―髙橋先生、内科医でありながら、ここでは外科の経験も積んでいるそうですね。堤病院長は「彼をりっぱな外科医に…」とおっしゃってました。

それは言い過ぎでしょう(笑)。でも非常に貴重な体験をさせていただいていますよ。オペにも一緒に入って、縫合などもしています。全身麻酔の管理も行います。選択すれば初期研修でも行うことですが、医師として経験を積んだ今だからこそ、当時より病態などの理解も深まっているため勉強になります。怒られることもありますが、自身の技術も格段に上がりました。私はそもそも新しいことに挑戦するのが好きで、内科医として行って良い範囲の治療は、出来る限りなんでもやれるようになりたいと考えています。なぜなら、今後どのような経験がどういった場面で生きるか、まだ自分では分かりませんから。


―ご自身の内科のレベルアップに役立つ実感はありますか。

はい、いろいろなメリットがありますよ。例えば、胆嚢炎などは、内科で診断つけて手術適応となると、外科に移り、そこから先をみる機会は内科にはありません。でもここでは一緒にオペ室に入り、術後管理まで行っています。胆嚢炎は抗菌薬で内科的に治すこともできますが、全身麻酔を施して外科的に取り除くことの実際が分かると、手術のメリットとデメリットを考え、より良い選択肢を提案できます。高齢になると「手術までやらなくていいんじゃない?」などの意見も出てきますからね。それにCTなどでの画像所見がいざ開けてみるとこうだった、という画像診断能力も上がります。堤病院長はその画像読影能力も素晴らしく、蓄積された経験を目の当たりにすることができます。これは内科医だけに学んでいると分からないことですね。


―現在医師になって6年目と聞きました。ここまでの経歴をお教えください。

出身は千葉で山形大学の医学部を卒業しました。大学ではサッカー部で、県代表として天皇杯に出てJ1のチームと試合をしたこともあります。研修医で奄美大島に行ったのが自分にとって大きな経験でした。島に1ヵ所しかない基幹病院で、ありとあらゆる患者を受け入れていました。ドクヘリにも乗っていたのも良い思い出です。様々な患者を受け入れて治療をして、その後も他の病院に移ることは少ないわけです。だから自分が担当した患者さんの経過も全部追うことができました。それは平戸市民病院にも通じるところはありますね。こちらは橋で陸続きではありますが。一通り何でも診られるようになりたい人には非常に良い環境です。
もともと、子どものころから何か社会貢献をしたいという漠然とした感情があり、それには医師免許は持っていた方が良いなと考えて医師になりました。ちなみに高校卒業後は新聞販売店に住み込んで働いたり、都内でフリーターしてた時期もありました。
海外の途上国での医療活動にも興味があり、初期研修終了後は熱帯医学を学ぶために長崎に来ました。長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科でMTM、DTMHを修了し、その後長崎大学病院総合診療科・熱研内科に所属して働いています。ザンビアで診療活動をしている山元香代子医師のもとで働きたかったのですが、コロナの影響でやむなく延期になりました。総合診療科・熱研内科のはからいでフィリピン研修にも行かせていただき、感染症の専門病院で結核やHIV、破傷風、狂犬病などの診療を学びました。病院以外にもヘルスセンターの見学なども行うことができ、良い経験になりました。フィリピンでもそうですが、内科医でも切開ドレナージなど外科的な処置が出来れば診療の幅が広がり、治療の選択肢も増えます。出来なければ出来ないで仕方ないけれど、自分の持てる選択肢は多いに越したことはありません。


―なるほど、それを聞いて、積極的に外科の経験を積む理由が分かりました。平戸市民病院での日常はどのような感じでしょう。

外来患者を診て、入院患者を診て、手術があれば参加して、その他にも生検や、アテロームの摘出や、ERCPの補助なども行っています。上部消化管内視鏡検査やイレウス管留置あたりは一人でもできるようになりました。なんでも自分でできるようになりたいと言っても、合併症のリスクなども考慮し、自分がやるべき処置かというところは患者さんの利益を中心にシビアに評価するようにしています。例えば、下部消化管内視鏡検査は上部より専門性やリスクも高くなってきますので、当面は手を出すつもりはありません。手技や外科的な分野の話が多くなりましたが、もちろん中心は内科診療で、糖尿病などの慢性疾患から肺炎や心不全といった急性疾患を多く診ています。普通の一般内科の診療範囲を超えると思われる血液疾患や難治性の関節リウマチなども、患者さんが望めば、当院の他の医師や佐世保の総合病院と連携を取りながらできる限り対応しています。訪問診療や特別養護老人ホームにも出向きます。それから大事なのが、初期研修医が多く研修に来るので、教える機会も多いことですね。


―平戸市民病院には多くの臨床研修医が都市部からやってくるそうですね。地域医療のどんな点を学んでほしいと思いますか。

大きな病院の中の研修医は、先輩がやることを見学することが多く、自分が診察しても決定権は無い立場です。しかし、ここではお客さん扱いはせず、やる気のある人には自分で診療させるなど任せます。それが一番成長できるから。もちろん後で私が全てチェックしています。正直言って、私が自分でやる方が早いことも多いけれど、本人の自主性が大切です。私自身、奄美でいろいろなことをやらせてもらって、それがとても自分のためになりました。その時に出会った救急救命センターの原純先生には、大変影響を受けました。原先生は今独立して「みんなの診療所」を設立運営していますが、SNSやブログで情報発信をされており、今でも刺激を受けています。いずれにせよ、研修医の時にどのような病院で何を学ぶか、誰に出会うかがその後の人生を左右すると言っていいと思います。だから当院のように高血圧などの慢性疾患から救急車で運ばれる重症患者、緊急手術まで何でも診る病院で経験する方が、力がつくのではないでしょうか。


―髙橋先生は今後どうするのですか。

まずはザンビアに行って働きたいですね。それから将来的には、医療のシステム全体に関わる仕事に興味が出てきています。6年間医師をやってきて、問題はシステムであり、そこを改善するべきだと思い始めています。医師ってつぶしがきくでしょ(笑) 食うに困らない。


―先生のお話を伺っていると、ゲームで、道端に落ちている道具をとりあえず拾って自分の袋に入れて進んでいく主人公を連想します。

それも、言い過ぎでしょう(笑)。主人公でなくて村人Bくらいが良いです(笑)。


根獅子浜
平戸写真①
平戸写真②
ページのトップへ戻る