初期研修医

寺本 昇生 (地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立西神戸医療センター)
寺本昇生 寺本 昇生
地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立西神戸医療センター
平成29年9月4日~平成29年9月15日
(平戸市民病院)

 私は2週間、平戸市民病院で実習させていただきました。平戸に到着してまず、街灯が全くなく真っ暗闇で、ヘビやイノシシが平然と飛び出してくる夜道に衝撃を受けました。住宅も、とんでもなく狭い山道の先にあり、ここは本当に日本なのかと何度も疑いました。都市部との大きな違いを感じたのは自然・住宅環境だけでなく、医療の在り方も例外ではありませんでした。患者層や医療従事者のマンパワー、検査機器の数が全く異なるので、自ずと患者さんに提供する診療の内容までがらりと違いました。特に夜中の救急外来では、神戸の病院で当たり前のようにしている検査ができずに診療が進まず、上級医の先生の診療を拝見して、これで本当に良いのだろうかと、何度ももどかしい気持ちになりました。
 しかし、日を経るごとに医療者の視点が異なることに気が付き、その気持ちは変わってきました。我々が平然勤める病院では、思い通りに検査をして当たり前のように結果が即座に出る環境です。夜間であても医療行為に制限がないので、診療上重視するのは治療ガイドラインであり、治療が患者さんの生活環境や家族背景の先に立っている気がします。ところが平戸のようなへき地では、患者さんがどこから来ていて周囲にサポートをする者がいるか、というところから診療がスタートしていました。患者さんのことを、疾患を有する治療対象としてみるのではなく、一人の人間として全人的な視点から入って、治療が二の次である印象でした。疾患で入院適応を判断せず、「この患者さんがどうなっていくか」「誰がサポートしていくのか」で入院を考慮されており、へき地は検査で疾患を突き詰めていくことは優先されない環境なのだと気が付きました。
 平戸は、患者さんが住み慣れた地域で自分らしい人生を最後まで続けられるよう、医療者と周囲の者が協力して支援をする「地域包括ケア」の姿勢が体現された場所でした。短い期間ではありましたが、地域医療について改めて考えさせられた2週間でした。平然勤める病院しか知らない私にとって本当に貴重な経験となりました。平戸市民病院の先生はじめスタッフの皆様、へき地病院再生支援・教育機構の皆様、地域住民の皆様、同期研修の先生方に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。