奥田 有紀 (独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院)
奥田 有紀 | |
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独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 令和2年11月2日~令和2年11月24日 (平戸市民病院) |
平戸を地域研修先として選んだ理由は、日本列島最西端は一体どんなところなのだろう、という好奇心からでした。結果的に、平戸市民病院での研修はとても有意義なものとなりました。
研修前の地域医療のイメージは、医師不足と過疎化で医療はひっ迫しているのだろうという漠然としたものでした。また、自分の研修病院での医療しか知らない私にとり、全く異なる環境で研修させて頂く事自体が初めてで、研修前は緊張感と高揚感が入り混じった感情を抱いておりました。
実際に研修させて頂き感じた事は、①地域の医療の将来を見通して医療体制を考える事の重要性、②地域医療は現在、色々な人の踏ん張りで成り立っているという事、の2点です。以下にそれぞれについて感じた事を記載させて頂きます。
①地域の医療の将来を見通して医療体制を考える事の重要性
自分の研修病院にはなく、平戸市民病院での研修で初めて体験した医療行為が、”訪問診療”と”健康診断”でした。一ヶ月を通し、この二つこそ将来の平戸の地域医療の生命線である事に気が付きました。
訪問診療は私にとっては当初、車に乗ってのどかな平戸の道をドライブし、患者様のお宅に上げて頂くというワクワクしたイベントでした。しかし、『平戸市地域医療構想』には、平戸市は今後慢性期病床が過剰となるため、慢性期病床を増加させるのではなく、不足する慢性期病床分を在宅医療で賄う必要があるとの記載がありました。訪問診療は今後の平戸の医療にとって重要な位置づけである事に改めて気が付きました。また、実際に訪問診療に伺ってみると私たちですらお家に到着するのに苦労するような場所にお住まいの方も多く、このような人々が住み慣れた暮らしを維持しつつ医療にアクセスするためには訪問診療は必須であると肌で感じました。
健康診断については、その重要性は知ってはいたものの、そこまでの使命感を抱いた事はこれまでにありませんでした。しかし、研修を通して住民の方々の日頃の健康が、ひいては限られた医療資源の節約につながる事を実感しました。毎朝の健康診断を担当させて頂き、生活習慣病を抱えている患者様とお話しする事で、日頃から患者様自身に健康を管理頂くにはどうしたら良いかを考えるようになりました。健康診断の結果判定にも膨大な時間が必要であり、骨が折れる作業ではあるものの、大切な業務である事を実感しました。
初日に押淵院長の外来を見学させて頂き、今の平戸中南部の医療体制ができるまでの様々な苦労や障壁についてのお話しを伺いました。上記の訪問診療や健康診断は、30年前の院長着任時、平戸の医療の行末を考えたときに必要であると考えられたため、地道に実現されたとのことでした。様々な逆風がありながらも地道に構築されてきた医療体制を間近で見学させて頂き、感銘を受けました。また、自分も将来を見通せるようになりたいと考えました。
②地域医療は現在、色々な人の踏ん張りで成り立っている
外来や訪問診療を見学させて頂き、地域医療は先生方の献身的な働きの上で成り立っていると切実に感じました。平戸市民病院は地域包括ケアシステムの中核を担っており、医師の仕事のみならず、訪問看護やケアマネージャーさん、理学療法士さん等コメディカルの業務も見学させて頂き、貴重な経験となりました。
また、健康問題を抱えている高齢者を支えるために、あたるご家族や地域の方々の協力が必須である事も学びました。しかし、若い世代の都市部への流出や、過疎化、高齢化に伴いそのような”互助”の力はなかなか得にくいものとなっている事実を目の当たりにする事も何度かありました。地域の皆様が住み慣れた環境で等しく健康でいることを実現する事の難しさも身を以て経験させて頂いた研修でした。
平戸市民病院のスタッフの努力や地域住民の助けあいで平戸市の医療は成立している事を実感し、国家試験で学んだ”地域包括ケアシステム”とは、実際どういうものなのかを経験する事ができました。
研修の他、長崎大学熱帯医学研究所の有吉教授のお話しを伺う機会があったり、平戸の美味しい食事を楽しんだりと、とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。
今回の研修で学んだ事を、今後に活かして行きたいです。