初期研修医

岡本 浩平 (高砂市民病院)
岡本浩平 岡本 浩平
高砂市民病院
平成31年3月1日~平成31年3月29日
(平戸市民病院)

 地域医療研修のため兵庫県高砂市より参りました。私が普段研修している高砂市民病からは1人目の研修医となります。そのため研修内容や実際の生活環境などといった詳細はほとんど分からず、大きな期待とともに少しの不安も抱えながら、平戸での研修期間である3月を迎えました。
 平戸に到着して最初に思ったのは「とんでもない所に来てしまったかもしれない。」でした。自然はとても美しいです。空は高く澄んでいるし、海はどこまでも透き通っているように青く、山は爽やかな緑で溢れていました。しかし、道を進めば右は山道、左は田畑か漁港で、娯楽施設なんてものはなく、飲食店にしたって私に馴染みの深いド○ノピザはもちろんありません。吉○家も、す○家もありません。唯一病院からやや離れた場所にあるセ○ンイレブンだけが生活の支えでした。高砂市も決して都会とは言えませんが、交通の便にせよ飲食店にせよ、自分がどれだけ物資に溢れた環境で生活していたのかを痛感しました。
 そんな平戸で研修生活を送っていたある日、1日の勤務を終えていつものコンビニへ出かける道中にふと夜空を見上げると、そこには今まで見たこともないような満点の星空が広がっていました。街灯やネオンが燦々と輝き、光に満ちた都会では見ることの出来ない光景です。星までの距離をずいぶんと近く感じたことは、今でも鮮明に思い出すことができます。その時にはっと思ったのです。この平戸には料理屋も居酒屋も映画館もない。医療資源も私が勤務している所に比べて同等の水準を確保できているとは言い難い。しかし、医療者と患者様の距離はどうだろうか?私は普段から患者様一人ひとりの目線で、患者様に寄り添った医療を心掛けてきたつもりでした。それでも多くの症例を抱え、たくさんの検査や診療を同時並行でこなす毎日においては、どうしても患者様からの距離が遠くなりがちで、一人ひとりの姿形がぼんやり霞んでしまっていたのではないかと思います。 今日の医療現場を全国レベルで見渡せば、医師と患者の付き合いを超えた人と人との関わり合いはまだまだ不足しているのではないかと思います。それに比べてここ平戸市民病院の先生方は、平戸の方々と何十年以上もの時間を共に過ごされ、もはや家族同然のお付き合いをされている方が沢山いらっしゃいました。小さな夜空の星一つひとつを見つけられるような距離感で、患者様一人ひとりと医療者が密に関わることができていました。なにも医療資源の偏在に限ったことではなく、この関わりにも地域格差はあってはならないと思うのです。地域医療研修を通じて、そのことを強く感じました。このことを私がこれから医師として歩んでいく中で忘れてはならない大きな教訓であり、いつも共にあるべき目標として胸に刻もうと思っています。