初期研修医

長尾 学 (医療法人社団 神鋼会神鋼病院)
長尾学 長尾 学
医療法人社団 神鋼会神鋼病院
平成21年10月19日~平成21年10月30日
(生月病院)

 生月島は長崎県の平戸島の北西に位置する、人口約7000人の小さな島で、江戸時代より続く「隠れキリシタン」の信仰や捕鯨で有名な島だ。入院施設は生月病院のみで、病床数は70、5人の常勤医が外来、病棟業務、往診にあたっていた。
 外来はほとんどがお年寄りで、顔見知りも多い様子。待合いでは世間話に花がさき、小中学生は受診するわけでもないのに下校中に立ち寄り、道草をくっていく。病院はただの治療の場ではなく、島民の社交の場にもなっていた。アニサキスによる腹痛や、漁に出てエイのヒレで負傷した人など、神戸ではあまり目にすることのない患者も数多く来院した。
 重症患者も時折みられ、くも膜下出血、大動脈解離、消化管穿孔など、生月病院では対応できないような患者を救急車で2時間以上もかけて佐賀県にある総合病院まで搬送することもあった。曲がりくねった山道を救急車に揺られ、到着した病院で制吐薬をもらったのも、今ではいい思い出だ。
 最も印象的だったのは往診だ。医師一人、看護師一人が軽自動車で細い路地を進んでいき、1日に5~10件ほどの民家を訪ねてまわった。牛を飼っている家、島の名産の「アゴ」(トビウオの干物)がテーブルに置いてある家、棚の中にマリアの像が隠れている家、など、島民の生活や根付いている文化が垣間見えた。老夫婦で妻や夫の介護をおこなっている家庭や独居の方も多く、急な坂道の多い島で病院へ通院することを思えば、往診は患者さんからとても喜ばれた。どの家庭にいっても患者さんやその家族から笑顔が返ってくるのは、本当にうれしく、心が和んだ。
 わずか2週間という短い期間であったが、病院のスタッフの方々や患者さんは皆、外から来た私に親切で、たくさん声をかけて頂いた。病院の玄関から見える大海原は絶景で何度も足をとめて、無心で遠くを眺めた。とてもゆっくりと時間が流れる、忘れられない地域医療研修となった。山下院長をはじめ、お世話になった先生方、病院のスタッフの方々、本当にありがとうございました。