初期研修医

黒濵 大和 (長崎大学病院)
黒濵大和 黒濵 大和
長崎大学病院
平成22年12月1日~平成22年12月28日
(平戸市民病院)

1ヶ月間お世話になりました、長崎大学病院の黒濱大和と申します。
私は熊本県の天草出身です。天草諸島は橋で本土とつながっていますが、熊本市街から車で約2時間かかります。また天草の人口は約14万人と平戸市の4倍ですが、面積も約1000平方km(端から端まで車で約2時間)と4倍であり、過疎化が進んでいるという問題点は同様です。産業構造は半農半漁で地域性としても似ており、今回の研修で平戸を訪れて、なんだか懐かしいような感覚がありました。
私は当初、今回の研修で学びたい点として、平戸市民病院のような規模の病院で可能な医療はどのようなレベルのものか知りたいと思いやってきました。しかし研修を通してもっとも強く感じたことは、地域医療に必要なことはいわゆる病院での医療だけではないということでした。
例えば平戸市民病院のある平戸島の中南部には、8000人程の人々が生活していますが、最西端の宮之浦地区から平戸市民病院のある紐差地区まで車で30分はかかります。その中に医療機関は平戸市民病院のほかには診療所が1ヶ所あるのみです!これは非常にショッキングでした。このような地域では、特に急性疾患の場合には発症してから受診するまでの時間的制約がどうしても存在します。たとえ高度な医療機器を揃えていても、治療までのタイムリミットを越してしまう可能性は都市部に比べると高くなります。
そのような地理的不利を克服するには、疾病の予防に重点を置く必要があるという発想がおのずと生まれてきます。平戸市民病院は昭和60年度から病院業務と並行して保健事業に積極的に取り組んでおられるとのことで、私もこの1ヶ月の間、各種健診、健康教育などに参加させていただきました。私が興味深いと思ったのは、平戸市民のなかで①健診の受診率が高い人は、そうでない人に比べ、介護認定度が軽症で済む傾向にある、②検診の受診率が高い地区は、そうでない地区に比べ、医療費が低く抑えられているというデータがきちんと示されている点でした。病院主体で始まったこの取り組みですが、このような医療経済も含めた実績を示すことで、行政からも評価され、行政も巻き込んだ保健事業推進ができるようになります。市全体をあげた取り組みが奏功し、現在平戸市の介護保険料は長崎県平均や全国平均を下回っているとのことです。健康面だけでなく、市民の財布にも優しい取り組みともいえると思います。
人間はいつか老いて、死んでいきます。それは避けられないことですが、より健康な時間を長く生きる、よりよく老いるということは取り組み次第で可能です。適切な表現かは分かりませんが、病気になってからの治療を「採集」だとすれば、元気老人の創造を目標に保健に重点を置く平戸市民病院の取り組みは、「栽培」に例えられるかもしれません。そこには地域の人々と共に歩んでいく喜びのようなものがあるように思います。
平戸での1ヶ月間は、今後高齢化社会がますます進んでいく日本の未来において、自分は医療者として、さらに社会の一員としてどのように生きていくべきか、非常に影響を受けた1ヶ月間だったように思います。押淵院長はじめ、お世話いただいた多くの方々に感謝いたします。どうもありがとうございました。