青木 雄平 (独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院)
青木 雄平 | |
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独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 平成29年7月3日~平成29年7月28日 (平戸市民病院) |
まだ梅雨の明けていない7月、私は地域医療研修のため平戸市民病院に来ました。病院は長崎県北西部平戸島のほぼ中心、福岡や長崎市内から2時間30分ほどの位置にあります。島の人口は約2万人で、近隣に病院は少なくおよそ1万人がこの病院をかかりつけにされています。
この病院で研修して一番に感じたことは、患者さんとの距離の近さと医療スタッフに対する信頼感です。私が働いているのは横浜市にある急性期病院で、普段の仕事は救急外来や病棟業務が中心です。交通の便も良く、医療機関へのアクセスに困ることはない地域といえるかもしれません。仕事にあたり、特に救急外来では押し寄せる患者をいかに待たせず正確に診断・治療するかということを主に考えていました。そのため平戸市民病院での研修開始後、訪問診療にまず戸惑いを感じました。訪問診療では状態の安定している方が主な対象であり、症状のある患者に慣れてはおれど私に何かできることがあるのかと不安を覚えておりました。
しかしこの気持ちは日が経つにつれて薄れて行きました。訪問診療では診察室では窺い知ることのできない患者さんやその家族の生活を知ることができ、大事なのは「病気ではなく人を診る」ということだと気付いたからです。疾患の治療や予防において大切なのは患者さん自身や行動の変化ですが、それは医療者側から一方的にそう仕向けることではなく、その人を深く知り信頼関係を築くことで成り立ちます。ここではそれは「訪問診療」「健診」などの地域に根ざした活動により育まれているのだと感じました。
また、平戸市民病院では予防医療に熱心に取り組まれています。押淵院長が初めてこの病院に来られた頃は平戸島では全国平均と比べても脳出血患者が多かったそうです。脳出血は塩分制限や降圧薬による血圧コントロールにより発症リスクを下げることができます。しかし高血圧患者さんの中にはそのことを知らない方もおり、知っていたとしても通院や内服を手間に感じ治療を継続しない方もいます。そのような方への継続した情報発信や支援の末に現在ではかなり脳出血患者の数は減ったそうです。このように地域住民を意識した取り組みを多く肌で感じることができました。
日常から離れ、異なる地域・環境で働くということは、地域医療について学ぶということだけでなく普段自分が生活している場を客観視できるよい機会でもあります。平戸は緑に囲まれた立地であり環境が良く、食べ物もとても美味しいところです。他院からの研修同期にも恵まれ、楽しく充実した日々を満喫しておりました。時が経つのは早いものであっという間に研修の終わりを迎えてしまい、本当に名残惜しく思います。
事務の度島さんには生活上・業務上で困ったことなどで大変お世話になりました。岩田先生からは自分の専門分野にとらわれずに学んでいく方法や姿勢を教わりました。中桶先生は大変優しく熱心にご指導してくださり、患者さんとの接し方や医師としての姿勢を学ばせていただきました。病院の皆様や平戸に暮らしている方々の暖かい雰囲気の中、充実した研修を送らせていただいた1ヶ月だったと思います。皆さまへの感謝の気持ちを忘れず、今後の医師人生に活かしていきたいと思います。この場を借りてお礼申し上げます。