初期研修医

梅原 玲菜 (長崎大学病院)
梅原玲菜 梅原 玲菜
長崎大学病院
令和元年6月10日~令和元年7月5日
(平戸市民病院)

 大学病院では高度の認知症の患者さんを診ることは少ない。「治す」ための病院だから、比較的若くて体力のある人が多い。だから認知症をもった方に接する方法をきちんと知らずに今まできてしまった。
 平戸市民病院では、認知症の患者さんは多かった。神経内科の中桶先生は、外来で認知症の患者さんの手をよく握った。腰をかがめて手を握られると、にこりと笑う患者さんもいた。「認知症の患者さんは、僕が誰だかわからない。だから手を握り、敵ではないということを伝える。認知症の人には非言語的なコミュニケーションこそが重要だ」と先生は言った。
 病院で出会ったOさんには認知症があった。Oさんが手を挙げたので、私も真似をして手を挙げた。Oさんが空中で手をくるくると回すのを真似をしていたら、最後に私の頭をチョンとはたく真似をするので、わたしははたかれた頭を両手で押さえた。その後も何度かOさんと会った。私と目が合うと、Oさんは遠くからでも私の頭をはたく真似をして笑った。私はそのたびに頭を押さえて笑った。時間のあるときは、手を挙げてくるくるを最初からやった。それがOさんと私の挨拶のように思えていた。挨拶をやるたびに、大人に構ってもらえて嬉しい子供のような気持ちがした。私がOさんを憐れに思ったことはなかった。
 非言語的なコミュニケーションが大切だと、中桶先生は言う。身体に触れ、手を握る。敵意がないことを知ってもらう。Oさんと私の挨拶にも言葉があったわけではない。けれども、Oさんが私をはたく真似をした後、私に向けて笑ってくれるのが嬉しかった。これも、非言語的なコミュニケーションの一つだろうか。
 今回の平戸研修で、認知症のある人それぞれに個性があって、ただの可哀想な人ではないと思った。認知症があっても在宅で生活している人はいた。私は将来、そういった人たちを支える側になりたいと思う。一度なくなってしまった機能は戻らないものだから、ないならないで別の方法を考えられるようになりたいと思う。「治す」ための大学病院でこういうことと向き合う機会は少ないから、とにかく色々考えた。そして、もっと知りたいと思った。その機会が得られたこの研修を支えてくださった平戸市民病院の皆さんと患者さん、そしてOさんに感謝の意を表したい。