初期研修医

佐川 綾菜 (独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院)
佐川綾菜 佐川 綾菜
独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院
 平成29年1月4日~平成29年1月31日
(平戸市民病院)

 初期研修も終わりに近づいた研修医2年目の1月、地域医療研修の一環で長崎県・平戸島の中部に位置する紐差町にやって来ました。長崎空港からバスを乗り継ぎ6時間、夕闇の中で朱色に輝く平戸大橋を渡り、長い山道を越えて病院に到着する頃には辺りはすっかり夜の闇に包まれていました。「思っていたより山奥に来てしまった…」そんな一抹の不安を抱えながら迎えた研修初日でしたが、夜が明けると美しい山々と青空が目に入り、病院ではスタッフの方々が暖かく迎えてくださって平戸市民病院での一ヶ月間の研修が始まりました。
 普段は横浜市北東部の中核医療施設で研修している身であり、医療施設へのアクセスにはなんら困らない都市部での急性期医療に主に携わっていましたが、ここでは何らかの事情で通院することが困難な地域住民の自宅に訪問して行う診療や看護、リハビリテーションに同行させて頂き、普段経験することのできない「地域に根ざした医療」を見せて頂きました。そして、病院の外来診察だけではうかがい知れない「生活」を知ることが、本当の意味での「疾患ではなく人を診よ」の一歩であることを学びました。キリスト教伝来の地である平戸には、今もカトリック信徒が多く、訪問した自宅にマリア像が飾ってあるのを度々目にし、信仰心の深さを実感しました。また、海に近い町では日中男性が漁に出ているため町には女性が多いことも知りました。多くの家庭で野菜を作っており、畑仕事が高齢者の健康維持につながっていることも訪問を通じて分かりました。
 そんな自然や文化と密接な関わりを持った地域住民の生活と健康を、「健診」という形で支え、今も50%を超える特定健診の受診率を誇る同病院の取り組みには、様々な問題を抱える地域医療の希望が詰まっていると感じました。さらに度島・的山大島での離島研修では、島に医師が一人という状況でも島の生活を楽しみながら診察に当たられている医師の姿を目にし、自分の中で地域医療のイメージがポジティブなものに変化していくのがわかりました。
 平戸の地で経験し感じたことは、横浜の研修だけでは絶対に得られなかったものであり、今回こちらに来ることができて本当に良かったです。水色の根獅子の浜や眼下に広がる棚田、満天の空、海の向こうの生月島の風車など、美しい平戸の自然の風景とともに大切に持ち帰ろうと思います。
 一ヶ月間、ここには書ききれない沢山の貴重な経験をさせて頂きありがとうございました。平戸市民病院の皆様、地域住民の皆様、ながさき県北地域医療教育コンソーシアム参加病院の先生方など多数の方々にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。